もいへないさびしさだつた、噴烟、岩石(枯木、熊笹は頂上近くまであつたが)、残雪、太陽!
落葉松の老木は尊いすがたである。
やうやく一里あまり下ると、ぷんと谷底から湯の匂ひ、温泉宿らしい屋根が見える、着いたのは三時だつた、何と手間取つたことだらう、それだけ愉快だつた。
とりつきの宿――日進館といふ、私にはよすぎる宿に泊る、一泊二飯で一円。
すべてが古風であることはうれしい、コタツ、ランプ、樋から落ちる湯(膳部がいかにも貧弱なのはやつぱり佗しかつたが)、何よりも熱い湯の湧出量が豊富なのはうれしい。
○ぐん/\湧きあがる熱湯が湛へて溢れる湯けむりを見よ。
旅館は並んで二軒、離れて一軒、どれも相当大きい、たゞし今頃は閑散季で、ゆつくりとしづかである。
自炊式であることはよろしい、給仕してくれないのが私には気楽でよろしい。
さつそく洗濯をする、それから鬚を剃り爪を切る、さつぱりする、あかるくなる。
だん/\曇つてきた、とかく山国は雨になりがちだ、明日もまた降るかも解らない。
○山国と味噌汁[#「山国と味噌汁」に傍点]、朝も汁、晩も汁だ、汁はわるくないが、その味噌が臭くて酸つぱいと弱る。
ねむれな
前へ
次へ
全80ページ中54ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング