客。
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道を踏み違へて(道標が朽ちてゐたので、右へ下るべきを左へ霧積温泉道を辿つたのである)、山中彷徨、殆んど一日。
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山ざくら、山くずれ、落葉ふかく。
すべつてころんで、谷川の水を飲む。
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やつと湯の沢といふところへ下つて、杣人と道連れになつて、坂本の宿場に急いだ。
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芭蕉句碑(一つぬいで――)。
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横川の牛馬宿に泊る、座蒲団も出してくれ茶菓子も出してくれて七十銭。
客は私一人、熱い風呂を浴びて爐辺に胡坐をかいて、やれ/\助かつた!

 五月十三日[#「五月十三日」に二重傍線] 晴――曇。

早朝出立。
碓氷関所阯[#「阯」に「マヽ」の注記]、妙義の裏、霧積川の河鹿、松井田町(折からのラヂオは赤城の子守唄だつた)、きんぽうげ、桐の花、安中原市、そこの杉並木はすばらしかつた。
途中で巡査に訊門[#「門」に「マヽ」の注記]されたりなどして、癪だから理髪する。……
高崎市の安宿に寄ると、ふしぎや、また例のルンペン君に出会つた、人生万事如是々々、そして人生はまた一期一会だ(但会
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