なごやの春もにぎやかな青木の実
・まいにち風ふくからたちの芽で
・はる/″\ときて伊豆の山なみ夕焼くる
・かうして生きてゐることが、草の芽が赤い
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四月二十日 快晴、下田へ出立する。
川奈ゴルフ場、一碧湖、富戸の爼岩、光の村、等々を横眼で眺めつゝ通りすぎる、雑木山が美しい、天城連山が尊い、山うぐひすが有難い。
風、風、強い風が吹く、吹きまくられつゝ歩く、さびしい、つかれる。
赤沢あたりから海岸の風景が殊によろしくなる、茫々たる海、峨々たる巌、熱川温泉に安宿があるといふので下つて行つたが断られた、稲取へ暮れて着いて宿をとつてほつとした、行程八里強。
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・芽ぶくより若葉する湯けむりをちこち
・山路あるけば山の鴉がきてはなく
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四月二十一日 谷津温泉、一郎居。
しづかな、わびしい宿だつた、花屑がそこらいちめんに散りしいてゐた。
昨夜のルンペン君と別れる、今生ふたゝび逢ふことはなからう。
今日も晴れて風が吹く。
今井浜は伊豆舞子とよばれるだけあつて海浜がうつくしい。
行程三里弱、午前中に谷津の松木一郎君を訪ねる、
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