り]

 四月十八日 滞在、休養、整理。

伊豆はさすがに南国情調だ、麦が穂に出て燕が飛びかうてゐる。
○伊豆は生きるにも死ぬるにもよいところである。
○伊豆は至るところ花が咲いて湯が湧く、どこかに私にふさはしい寝床はないかな!
大地から湧きあがる湯は有難い。
同宿同行の話がなか/\興味深い、トギヤ老人、アメヤクヅレ、ルンペン、ヘンロ、ツジウラウリ。……
焼酎をひつかけてぐつすり眠つた。
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・なみおとのさくらほろほろ
・春の夜の近眼と老眼とこんがらがつて
・伊豆はあたゝかく死ぬるによろしい波音
・湯の町通りぬける春風
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 四月十九日 雨、予想した通り。

みんな籠城して四方山話、誰も一城のいや一畳の主だ、私も一隅に陣取つて読んだり書いたりする。
午后は晴れた、私は行乞をやめてそこらを見物して歩く、浄の池[#「浄の池」に傍点]で悠々泳いでゐる毒魚。
伊東はいはゆる湯町情調が濃厚で、私のやうなものには向かない。
波音、夕焼、旅情切ないものがあつた。
一杯ひつかける余裕はない、寝苦しい一夜だつた。
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   (伊東町)
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