にふかれつゝ
・鎌倉は松の木のよい月がのぼつた
[#ここで字下げ終わり]
大仏さん
異人さん
さくら

[#ここから3字下げ]
いちはやく山ふところのさくら一もと
  斎藤さんに
また逢ひませうと手を握る
[#ここから1字下げ]
東京をうたふ。
[#ここから3字下げ]
ほつと月がある東京に来てゐる
花ぐもりの富士が見えたりかくれたり
ビルからビルへ東京は私はうごく
ビルがビルに星も見えない空
  ビルにて
窓へやつと芽ぶいてきた
[#ここで字下げ終わり]

 四月五日[#「四月五日」に二重傍線] 快晴、鎌倉から東京へ。

眼が覚めると海がころげてくるやうな波音である。
鳴雨居はしづかな夫婦ずまゐ、別荘風のしやれた家である。
朝湯朝酒、今日に限つたことではないけれど勿体ないなあと思ふ。
雪男さん来訪、散歩する、雪男居に寄る、御馳走になる。
昨夜の召電によつていつしよに上京する、大船で約束通り蜻郎君と落ち合ふ。
うらゝかな日である。
品川へ着いてまずそこの水を飲んだ、東京の水である、電車に乗つた、東京の空である、十三年ぶりに東京へ来たのだ。
大泉園を初めて訪ねる、鎌倉の椿が咲いてゐる、井
前へ 次へ
全80ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング