を味解する人は一本のマッチでも粗末にはしない。

 S夫人はインテリ女性であった。社交もうまく家政もまずくなかった。一見して申分のないマダムであったけれど、惜むらくは貧乏の洗礼を受けていなかった。とあるゆうべ、私はその家庭で意外な光景を見せつけられた。――洗濯か何かする女中が水道の栓をあけっぱなしにしているのである。水はとうとうとして溢れ流れる。文字通りの浪費である。それを知らぬ顔で夫人は澄ましこんでいるのである。――女中の無智は憐むべし、夫人の横着は憎むべし、水の尊さ、勿体なさ……気の弱い私は何ともいえないでその場を立ち去った。
 彼女もまた罰あたり[#「罰あたり」に傍点]である。彼女は物のねうち[#「ねうち」に傍点]を知らない。貨幣価値しか知らない。大粒のダイアモンドといえども握飯一つに如《し》かない場合があることを知らない。

 大乗的見地からいえば、一切は不増不減であり、不生不滅である。浪費も節約もなく、有用も無駄もない。だが、人間として浪費は許されない。人間社会に於ては無駄を無くしなければならない。物の価値を尊び人の勤労を敬まわなければならないのである。
 常時非常時に拘らず
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