労も忘れていたが、ふと気づくと、彼はやたら[#「やたら」に傍点]にマッチを摺っている。一服一本二本或は五本六本である!
――ずいぶんマッチを使いますね。
――ええ、マッチばかり貰って、たまってしようがない。売ったっていくらにもならないし、こうして減らすんです。
彼の返事を聞いて私は嫌な気がした。彼の信心がほんもの[#「ほんもの」に傍点]でないことを知り、同行に値いしないことが解り、彼に対して厭悪と憤懣との感情が湧き立ったけれど、私はそれをぐっ[#「ぐっ」に傍点]と抑えつけて黙っていた。詰《なじ》ったとて聞き入れるような彼ではなかったし、私としても説法するほどの自信を持っていなかった。それから数日間、気まずい思いを抱きながら連れ立っていたが、どうにもこうにも堪えきれなくなり、それとなく離ればなれになってしまったのである。その後、彼はどうなったであろうか、まだ生きているだろうか、それとも死んでしまったろうか、私は何かにつけて彼を想い出し彼の幸福を祈っているが、彼が悔い改めないかぎり、彼の末路の不幸は疑えないのである。
マッチ一本を大切にする心は太陽の恩恵を味解する。日光のありがたさ
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