物を大切にする心
種田山頭火

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)偕《とも》に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)いのち[#「いのち」に傍点]
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 物を大切にする心はいのち[#「いのち」に傍点]をはぐくみそだてる温床である。それはおのずから、神と偕《とも》にある世界、仏に融け入る境地へみちびく。
 先年、四国霊場を行乞巡拝したとき、私はゆくりなくHという老遍路さんと道づれになった。彼はいわゆる苦労人で、職業遍路[#「職業遍路」に傍点](信心遍路に対して斯く呼ばれる)としては身心共に卑しくなかった。いかなる動機でそういう境涯に落ちたかは彼自身も語らなかったし私からも訊ねなかった。彼は数回目の巡拝で、四国の地理にも事情にも詳しかった。もらい[#「もらい」に傍点]の多少、行程の緩急、宿の善悪、いろいろの点で私は教えられた。二人は毎日あとになりさきになって歩いた。毎夜おなじ宿に泊って膳を共にし床を並べて親しんだ。阿波――土佐――伊予路を辿りつつあった或る日、私たちは路傍の石に腰かけて休んだ。彼も私も煙草入を取り出して世間話に連日の疲
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