が)。
句稿二篇書きあげる、さつそくポストへ。
W店で飲む、酔つぱらつて、また泊つてしまつた。

 三月二日[#「三月二日」に二重傍線]

酔境に東西なく[#「酔境に東西なく」に傍点]、酔心に晴曇なし[#「酔心に晴曇なし」に傍点]。

 三月三日[#「三月三日」に二重傍線] 曇。

さみしくも風が吹く。……

 三月四日[#「三月四日」に二重傍線] 曇。

沈欝。――
フアブルの昆虫記を読む。
初蛙が枯草の中で二声鳴いた。
昨日も今日も絶食、そして明日!
たうとう不眠、長い長い夜であつた。
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春風の吹くまま咲いて散つて行く[#「春風の吹くまま咲いて散つて行く」に傍点](旅出)
[#ここで字下げ終わり]
わざとかういふ月並一句を作つてこゝに録して置く。
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其中雑感
  戦争、貧乏、孤独。
  散歩、酒、業《ゴウ》。
俳諧乞食業。
定型と伝統。
  歴史的必然。
旅で拾うた句。
[#ここで字下げ終わり]

 三月五日[#「三月五日」に二重傍線] 曇――雨。

身心平静、今日もまた絶食、落ちついて万葉鑑賞、万葉集は尊い古典である、動かされ、教へられ
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