にしみわたつたことである。

 一月廿日[#「一月廿日」に二重傍線] 曇、時雨。

ぬくい/\、まるで四月ごろのぬくさだ。
しづかな邸宅だ、雨乞山の巌壁もわるくない、水音がよい、枯葦もよい、小鳥が囀りつゝ飛んで、閑寂味をひきたてる。――
送られて戻ると、ぢき、正午のサイレンが鳴りわたつた。
雨漏のあとのわびしさ。
さつそく御飯を炊いて、満腹の幸福[#「満腹の幸福」に傍点]、昼寝の安楽[#「昼寝の安楽」に傍点]をほしいまゝにする(冥加にあまるが、許していたゞかう)。

 一月廿一日[#「一月廿一日」に二重傍線] 曇、小雨。

大寒入、冬がいよ/\真剣になる。
何となく憂欝、そのためでもあるまいが、御飯が出来損つた(めつたにないことで、そのことがまた憂欝を強める)。
午後、誘はれて、出張する樹明君のお伴をして山口へ行く、ほどよく飲んで帰つて来たが、それからがいけなかつた、私は樹明君を引き留めることが出来なかつば[#「つば」に「マヽ」の注記]かりではない、のこ/\跟いてまはつて、踏み入つてはならない場所へ踏み入つてしまつた!……何といふ卑しさ、だらしなさ、あゝ。……
彼の酔態は見てゐられない
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