月廿日[#「八月廿日」に二重傍線] 晴。

朝はまつたく秋だ、癈墟をさまよふやうな生存だ。
陰暦七月十五日、せつかくの月も雲があつて冴えなかつた、嫌な夢ばかり見つゞけた。
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酔境、無是非、没得失。
生死空々、去来寂々。

水があれば、――米があれば、――そして酒があれば。――
[#ここで字下げ終わり]

 八月廿一日[#「八月廿一日」に二重傍線] 曇――雨――晴。

さびしくかなしく(銭がないせいばかりではない)。
久しぶりのよい雨であつた、めつきり涼しくなつた。
澄太君から、句集柿の葉[#「柿の葉」に傍点]発送の通知、澄太君ありがたう、ありがたう。
よい月夜、たうとうランプをつけないですました。

 八月廿二日[#「八月廿二日」に二重傍線] 曇――晴。

悪夢から覚めて直ぐ起きた、あまりに早かつたが。
語録を読む、先聖古徳の行持綿々密々なるにうたれる、省みて私は。――
文字通りの、米と塩だけになつた。
夕方、孤愁に堪へかねて四日ぶりに外出、散歩がてら駅まで行く、句集はまだ来てゐない、帰途M屋で一杯ひつかけ、折から昇る月を背負うて戻る。
徹夜不眠、幸にして三時頃新
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