るほど美しい。
午後、やうやく半切四枚を書きなぐつた、悪筆の乱筆をもつともつと揮はなければなりません!
今夜も睡れないので、あれこれ読みちらしてごまかす。
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読書浄土
旅極楽
飯醍醐
酒甘露
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 十二月十九日[#「十二月十九日」に二重傍線] 曇――雪。

寒い雲がかさなりひろがつて年の瀬らしくなる、粉雪がちら/\する、寒い、寒い。
火鉢に火、机に本、おちついてしづかな心。
あるだけの米と麦とを炊く、二食分には足るまい、また絶食か! つらいね。
しようことなしに、暮羊君から墨を借りて、半切四枚書きなぐる、いつものやうに悪筆の乱筆[#「悪筆の乱筆」に傍点]、仕方がないといへばそれまでだけれど、あまりよい気持ではない、そしてそれを急いで送るべく――早く物に代へて貰ひ[#「ひ」に「マヽ」の注記]ために、ポストまで出かける、ついでにうどん玉を買ひたかつたが、かなしいかな、銭がなかつた。
風がきびしくなつた、まさしく凩だ。
かねて見つけておいて蔓梅一枝を活ける、よいなあと眺める。
夕方、Y君がだしぬけに来庵、ほとんど一年ぶりだ、持参の酒と魚とを食べて
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