にも何か降りだしさうな空模様である。
初霜初氷。
霜に強い葉弱い葉、氷を砕く音の快さ。
いよ/\南京陥落も迫つた、亢奮せざるを得ない。
軍歌一篇をまとめた。
煙草もなくなつた、石油も乏しい、木炭も僅かしか残つてゐない、其中庵非常時風景、いや、むしろ、平常時風景!
悠然として飢えるか[#「悠然として飢えるか」に傍点]! それだけのおちつきが私にあるならば、私は私を祝福する。
今が絶食の――断食といふよりも妥当だ――最も苦しい時である、頑張れ、頑張れ。
臥床読書、徒然草鑑賞。
午前は菜漬、午後は煮大根を少々食べる、なんと番茶のかんばしさ。

 十二月七日[#「十二月七日」に二重傍線] 曇、時雨。

寒い々々、貧弱々々。
動いて動かざる心[#「動いて動かざる心」に傍点]を養へ。
今日で絶食三日[#「絶食三日」に傍点]、断酒も三日、そして禁煙二日、――午後堪へきれなくなつて出かける、精神は落ちついてゐるけれど、肉体がひよろつく、やうやくコツプ酒一杯、なでしこ一袋にありつく、米の方はいろ/\うるさいことがあるから、W老人を訪ねて芋を貰うて戻る、芋のうまさ[#「芋のうまさ」に傍点]が――今まであま
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