らが私に愛想をつかすのもあたりまへだ、が、それにしても私はあきらめきれない、私はまたと得がたい尊い心友のどちらをも失ふたのだらうか、私はやるせない悔恨に責められてゐる。……
暮れて風が吹きだした、月はかう/\とかゞやいてゐる、何だか寂しくてやりきれないので、或る人へ手土産のつもりで買つて置いた外郎を食べる、なつかしい味だ。
眠れない、眠りきれない。――
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上手下手の境[#「上手下手の境」に傍点]を早く通りぬけたい。
よいとかわるいとかいふ批評を許さない境地に到達したい。
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 十一月十九日[#「十一月十九日」に二重傍線] 曇。

寒うなつた、冬らしく風が吹く。
沈欝、時として、天地に向つて慟哭したいやうな気持におそはれる、それは持病ともいふべきオイボレセンチではない。
私は隠遁生活[#「隠遁生活」に傍点]にはいらう(今までもさうでないことはなかつたけれど)、そして孤独に徹しなければならない[#「孤独に徹しなければならない」に傍点]、それが私の運命だ。
今夜はいつもよりよく眠れた。
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自律心[#「自律心」に傍点]をなくし
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