れば離れる、離れたいのに即く、これが人間の、ことに私の癖だ、実際生活に於ける私の態度は不即不離[#「不即不離」に傍点]でありたい、言葉は古いけれど、意味は新らしい、私は人及物[#「人及物」に傍点]――就中[#「就中」に傍点]、酒[#「酒」に傍点]――に対して不即不離でなければならない[#「に対して不即不離でなければならない」に傍点]。
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実際生活を一点に集約すると、食べること[#「食べること」に傍点]、になると思ふ。
食べることは最も大切で、最も愉快で、神聖[#「神聖」に傍点]といふべきである。
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 十一月十八日[#「十一月十八日」に二重傍線] 曇――晴。

未明起床、演習の砲声が私を考へさせる。
しだいに憂欝が身ぬちにひろがつて堪へがたくなる、散歩、雑木紅葉がうつくしい、櫨紅葉は目さむるばかりである、生きてゐることの幸福[#「生きてゐることの幸福」に傍点]がほのかに湧いてくる。……
友が恋しい、逢ひたい、緑平老、澄太君から音信がないのが気にかゝる、先日の手紙は君ら二人を共に失望させ腹立たせたに違ひない、私が私に愛想をつかすほどだから、君
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