麦粉と粟餅とを頂戴した、うれしかつた。
十一月十七日[#「十一月十七日」に二重傍線] 晴。
身心安静。――
今日は陰暦で十月十五日、宮市天満宮の神幸祭である、おもひではつきない、共に裸坊[#「裸坊」に傍点]となつておもしろがつたA君はどうしてゐるだらう?
午後、Nさん来訪、無事[#「無事」に傍点]を喜ぶ(意味深長な一句だ)、見送りがてら、散歩がてら、石油買ひがてらに新町まで同道する、折から展開される演習を観る(何十年ぶりかで)。
戦争記事は私を憂欝にする、しかも読まずにはゐられない、読みつゝ道徳的苛責[#「道徳的苛責」に傍点]を感じる、非国民のそしりを甘んじて受ける私であるが、しかも非国民であることには安んじ得ない私である。
とてもよい月夜だつた、ぢつとしてゐると、宮市のお祭のどよめきが聞えるやうだ、私はひとりさみしく耳を澄ましてゐた。
夢を見た、はかない夢であつた、恥づかしい夢でもあつた、血肉のつながりの微妙さ[#「血肉のつながりの微妙さ」に傍点]を此事件に於て味ふた、血肉は切つても切れない、切れば血が出る、その血は時としてあまりねばりづよくてあさましくなるが。……
即かうとす
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