た。……
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虚心[#「虚心」に傍点]。――
生死を超越した生死、是非を超越した是非、得失を超越した得失。

色即空[#「色即空」に傍点]、空即色[#「空即色」に傍点]。
煩悩を離れて人間は存在しない、存在することは出来ないけれど、人間は煩悩に囚へられてはならない、煩悩を御するところに生活がある。
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 十一月十三日[#「十一月十三日」に二重傍線] 曇。

その翌朝だ、――何といふ悲しい現実だ。
Kさんからの手紙が私を悲しませる。
鶲よ、お前もさびしい鳥だね。
ぢつとしてゐるに堪へきれなくなつて散歩する、阿知須まで行つた、その塩風呂はよかつた、中食もうまかつた、夕方帰庵して、めづらしく熟睡をめぐまれた。

 十一月十四日[#「十一月十四日」に二重傍線] 晴――曇。

沈静、待つものは来ないけれど。――
土に還る[#「土に還る」に傍点]、――ああ!
身辺整理。
みそさゞいが来て、さびしい声で啼く。
夕、ポストまで出かける、ついでに理髪する、そして一杯やる、この一杯は最後の一杯[#「最後の一杯」に傍点]となるかも解らない。
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