曇。

身心きわめて沈静。
悲しい手紙を書きつゞける。
非国民、非人間のそしりは甘んじて受ける。
胸が痛い、心が痛い。
かへりみてやましい生活ではあつたが[#「かへりみてやましい生活ではあつたが」に傍点]、かへりみてやましい句は作らなかつた[#「かへりみてやましい句は作らなかつた」に傍点]、それがせめてものよろこびである。
最後の場面[#「最後の場面」に傍点]、山頭火五十五年の生涯はたゞ悪夢の連続に過ぎなかつた[#「山頭火五十五年の生涯はたゞ悪夢の連続に過ぎなかつた」に傍点]。
緑平老よ、澄太君よ、赦して下さい、健よ、悲しまないでくれ。

 十一月十二日[#「十一月十二日」に二重傍線] 晴。

朝早く、樹明君来庵、何だか形勢おだやかでない、先日来の出来事を告白する。
堪へがたい憂欝に堪へてゐるところへ、N君来訪、冷静に現在の自分を暴露する。
N君の好意を受けて、久しぶりに酒盃をとりかはす、すこし酔うて、いつしよに街へ出かけて、Mでしばらく遊んでから別れる、帰庵して残りの酒を飲みながら考へてゐると、酔樹明君があやしげな女を連れて来た、けつきよく、また連れ出されて、その女の許に泊つてしまつ
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