月九日[#「十月九日」に二重傍線] 晴。

沈欝、そこらを散歩して、農学校に立寄り、樹明君から五十銭借りる、石油を買ひコツプ酒を呷る。
色即是空[#「色即是空」に傍点]、空即是色[#「空即是色」に傍点]、――私はこの境地に向ひつゝある、そこまで徹したいと念じる、現象に即して実在を観なければならないと思ふ[#「現象に即して実在を観なければならないと思ふ」に傍点]。
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□俳句性は――
 表現上では、簡素[#「簡素」に傍点]、それは五七五の定型に限らない。
 内容についていへば、単純[#「単純」に傍点]、必ずしも季感を要しない。
□俳句は個性芸術[#「個性芸術」に傍点]、心境の文学[#「心境の文学」に傍点]である、そして人間そのものをうたふよりも自然をうたふ――自然を通して、自然の風物に即して人間を表現することに特徴づけられる、生活をうたふにしても、人間を自然として鑑賞する境地に立つてうたはなければならない。
 俳人は現実に没入しながらも、しかも現実を超越してゐなければならない。
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 十月十日[#「十月十日」に二重傍線] 好
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