い秋日和。

終日身辺整理、だん/\落ちついてきた。
私の好きな茶の花が咲きだした。
秋風の裏藪がざわめく。
今夜も眠れない。――

 十月十一日[#「十月十一日」に二重傍線] 晴。

秋暑し、おちついて読む。
熟柿がうまい、山の鴉もやつてきて食べる。
午後、ポストまで出かける、W屋で一杯。
道べりの蓼紅葉がうつくしい。
神保さんの妻君が子供を連れて柿もぎに来た、今年はだいぶなることはなつたけれど大方は落ちた、それでも籠にいつぱい百ぢかくあつたらう。
今夜は幸にして眠れた。
不眠は我儘な不幸である。

 十月十二日[#「十月十二日」に二重傍線] 雨、後晴。

ひとりしんみりと籠つてゐた。
整理しても、整理しても、整理しきれないものがある、それが私のなげきなやみ[#「私のなげきなやみ」に傍点]となるのだ、整理せよ、整理せよ。
――無くなつた、何もかも無くなつた、銭はもとより、米も醤油も、マツチまでも無くなつてしまつた。
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私にあつては、酒は好き嫌ひの問題ではない、その有無が生死となるのである。
私が酒をやめようやめようと努めながらもやめることが出来ないのは、必ずしも
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