朝早く起きる、新生活の第一日である。
三人同道して彦島へ渡る、材木の受渡方計算法を教へて貰ふ、それから門司へ渡つてM会社のU氏に紹介される、何もかも昨日と今日とは正反対だ。
夜、樹明君を駅に見送る、当分逢へまい、切ない別離だつた(樹明君も同様だつたらしい)。

 九月十三日 晴。

主人について彦島へ行き、材木の陸揚を手伝ふ。
算盤の響だ、まつたく六十の手習!
嫌な家庭だ(家庭とはいへない家庭だ)、夫、妻、子、孫、みんなラツフでエゴイストで、見聞するにたへない場面の連続だ。
街を歩いてゐたら、ヅケを見せつけられた、あそこまで落ちてしまつたら、どんなに人間もラクな動物だらう。
いたるところ戦時気分がたゞようてゐる。
月がよかつた。

 九月十四日[#「九月十四日」に二重傍線] 晴。

主人と共に門司行、請求書調製。
オヤヂのワカラズヤであるに驚く、彼はガムシヤラで世の中を渡る男に過ぎない。

 九月十五日[#「九月十五日」に二重傍線] 晴。

未明起床、主人仲仕連中といつしよに本船へ出かける、北海道松を受取るのである、慣れない船上徃来には閉口した。
菜葉服にゴム靴、自分ながら苦笑し
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