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□たつたこれだけか[#「たつたこれだけか」に傍点]! 私の一生は[#「私の一生は」に傍点]!
□とにかく、花を見てゐると、或は月を仰いでゐると楽しい――少くとも腹は立たない!
私の花であり[#「私の花であり」に傍点]、私の月だ[#「私の月だ」に傍点]。
□「遊ぶ[#「遊ぶ」に傍点]」は「怠ける[#「怠ける」に傍点]」ではない、前者は緊張、後者は弛緩。
□仏法のために仏法を修める。
俳句のために俳句を作る[#「俳句のために俳句を作る」に傍点]。
たゞたゞ余念[#「余念」に傍点]あるべからず。
□物そのものになる[#「物そのものになる」に傍点]、なりきる[#「なりきる」に傍点]。
□作者は作者である限りヱゴイストであつてよい。
[#ここで字下げ終わり]
二月九日[#「二月九日」に二重傍線] 晴。
日本晴、まつたく春だ、朝寝したことも春らしかつた、蕗のとうをさがしあるくこともまた。
終日読書、読み労れるとそこらを歩く。
今日はほんたうに好い日だつた、観念的には日々好日といふけれど、実感[#「実感」に傍点]としてはいつもさうとばかりはいへない、よつぽど出来てゐる人物でない限りは。
とりとめもない物思ひ、そこはかとない無常感、――私は弱虫、そしてなまけものだわい、強くなれ/\。
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微笑する句[#「微笑する句」に白三角傍点](時々は微苦笑する)
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怒号、悲鳴、溜息、欠伸。
呵々大笑はおもしろいが時代が許さないだらう。
慟哭もわるくないけれど感情が拒むだらう。
生活内容の豊富貧弱はともかくとして、生活態度を確立せよ[#「生活態度を確立せよ」に傍点]。
時代の空気を深く吸ひこめ、そしてすつかり吐き出せ。
[#ここで字下げ終わり]
二月十日[#「二月十日」に二重傍線] 晴――曇。
春、春、春、晴れると、すつかり春だ。――
早すぎる春、嘘のやうな春だ。
足が痛い、頭が痒い、多少いら/\する、物資が乏しくなつたからでもあらう、もう米も石油も煙草も乏しくなつた。
たゞ死なゝいだけ[#「死なゝいだけ」に傍点]、それではつまらないやうにも考へ、また、それでよいやうにも思ふ。
とにかく小使銭がほしいな!
午後、ポストまで出かけたついでに湯にはいる、四日ぶりの外出、そして八日ぶりの入浴。――
[#ここから2字下げ]
お米買はうか 酒買ほか
石油にしようか 煙草にしようか
[#ここで字下げ終わり]
道ばたにはタカノツメとかいふ紫の小草が咲いてゐる、ぶらぶら歩いてゐるうちに、だん/\憂欝が軽くなる、途中一杯ひつかけた。
夜はまた出かけた、酔ひたくてたまらなかつたので、酔はずにはゐられなかつたので、……そして例によつて例の如し、マイナスにマイナスを加へ、愚劣に愚劣を重ねた、……こんとんとして何が何やら解らなくなつた。
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□まことの作者は飛躍[#「飛躍」に傍点]する、飛躍する作者は足踏[#「足踏」に傍点]する、爆発前の焦燥、緊張、苦悩、憂欝、それをぢつと堪へてゐなければならない。
□無能無力であることを自覚[#「自覚」に傍点]したが故に、その一筋につながることを体現[#「体現」に傍点]したのである。
[#ここで字下げ終わり]
二月十一日[#「二月十一日」に二重傍線] 曇――雨。
旧の正月元日、そして紀元節、建国祭。
茫々たり、たゞ茫々たり、何物もなし、何物もなし。
夕方、暮羊君来庵、招待されて訪問、うまい酒、うまい下物の御馳走を頂戴する、うれしかつた、快く酔うて、帰庵して熟睡した。
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※[#二重四角、41−2]俳句性とは――
内容に於て、随つて形式に於て
□単純[#「単純」に白三角傍点](最高限度の)
緊張[#「緊張」に白三角傍点](圧縮[#「圧縮」に白三角傍点]ではない)
□主観の燃焼[#「主観の燃焼」に白三角傍点] 即 印象の象徴化[#「印象の象徴化」に白三角傍点]
暗示[#「暗示」に白三角傍点](朦朧ではない、晦渋[#「晦渋」に白三角傍点]ではない)
[#ここで字下げ終わり]
二月十二日[#「二月十二日」に二重傍線] 雨。
雨の漏る音、わびしい一日。
夜、樹明君来庵、御持参の酒を飲んだが、やつぱりわびしい一夜だつた。
二月十三日[#「二月十三日」に二重傍線] 曇。
残つてゐるだけの酒を呷つて寝てゐる。
先々死々去々来々、それはそれでよいではないか、なぜこんなにこだはるのだ。……
冬、冬、冬、曇つて冬一人。
冬蠅が一匹、うるさくせつなく飛びまはる。
二月十四日[#「二月十四日」に二重傍線] 晴、時々霙。
身心不快。
午後、樹明来訪、つゞいて暮羊君来訪、例の如く飲む、
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