のリズムがあることを味はゝなければならない。
□行き詰ることはよろしい、ホントウは行き詰る、ウソはだら/\歩く、時々地駄太ふむのもよろしい。
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二月六日[#「二月六日」に二重傍線] 曇。
しつかりしろ! 山頭火!
足が痛い、善哉々々。
――もつと賢くなるか、それとも、もつと馬鹿になるか、とにかく中途半端がよろしくないのだ。
昨夜の今朝[#「昨夜の今朝」に傍点]で、嫌な気持だ、地球よ、さつさと廻転しろ、山頭火よ、どし/\歩め。
心がむづ/\する、お天気もよくない、降るなら降れ、照るなら照れ。……
怠惰の安逸に浸る、放心はありがたい。
うつろのやうな肉体を火燵のぬくさにつゝんで読書、ルナアル日記を読みつゞける、だん/\落ちついてくる。
ルナアル日記はちようど父の死を語つてゐる。
貪る心[#「貪る心」に傍点]が何よりも悪いと思ふ。
駄作、悪作、愚作、――せめて凡作[#「凡作」に傍点]を――傑作は出来ないから――もちろん、人生の、生活の、私の身すぎ世すぎである。
昨夜、貰つて来た馬肉(酔中でも遺失しなかつた)を煮る、佃煮にする、おもひで果てなし。
ハガキを貰つたから今日も賀状を書く、ノンキだね。
六時のサイレンが鳴つてから、学校の宿直室に樹明君を訪ねる、いつもにかはらぬ顔を見て安心した(チユウリツプの球根が身代りになつたらしい!)。飯をよばれ酒をよばれ、そして泊らせて貰ふ。
明るい電燈のあかりで、火鉢のあたゝかさで、めづらしく原稿――独語[#「独語」に白三角傍点]六枚――を書きあげる。
落ちついて、のんびりして、愉快になつた。
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□何となく老人に心ひかれるやうになつた私は、私自身老人になつてゐた!
□彼は酒が好きな点では日本人としての幸福をめぐまれてゐるが、餅を好かないのは大いなる不幸だ。
□足を病んで足が二本あることをしみ/″\有難いと思つた。
□生地で生きなければ創造することは出来ない[#「生地で生きなければ創造することは出来ない」に傍点]。
□自殺は彼の最後の我儘だ。
□五日一草、十日一石といふ、私は一生一水[#「一生一水」に傍点]でありたい。
□石の沈黙、藪の饒舌、そして人間の矛盾。
太陽の愛撫、小鳥の明朗。
□いつも最後の晩餐[#「最後の晩餐」に傍点]だ。
いつも最初の朝飯だ。
□独言は愚痴ともいへる。
□空洞から生れる句[#「空洞から生れる句」に傍点]、それは水のやうな、或は風のやうな句。
□一時の睡眠から永遠の睡眠[#「永遠の睡眠」に傍点]へ――やつぱり催眠剤がよい、――酒を腹いつぱい飲んで、それから寝床に横はつて。――
□母の死……弟の死……祖母の死……父の死……さて、次の番は……どうやら順番が来たやうだ、いや、順番にしなければならないやうだ。……
□米櫃に米がある、酒徳利に酒があることは何といふ幸福だろう、反古籠に反古があることさへも。
□over value よりも under value
□酔ふ、遊ぶ、そして滅ぶ。……
[#ここで字下げ終わり]
二月七日[#「二月七日」に二重傍線] 曇。
暖かい雨、もう春が来たやうな。――
新聞を読んで、朝飯をよばれて、おとなしく帰庵。
ルナアル日記を読みつゞける、ゆつくりと落ちついて。
どこかで仔犬が鳴きわめく、と仔犬のいぢらしい姿態が眼前にうかびあがる。……
彼には盗癖があるらしい(N屋の店員)、すつかり嫌になる、彼の何でもない一挙動が私をこんなにも憂欝にする。……
樹明君来庵、酒を持つて――飲んで話してゐるところへ、Sさん来庵、酒と下物とを持つて――酔ふ、私は酔うて睡つてしまつた。
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□遊蕩のための遊蕩のよろしさ!
□私には好悪はあるが美醜はない、浄穢不二にはなりきれないけれど愛憎はあつさりしてゐる。
□感傷は反芻する[#「感傷は反芻する」に傍点]。
孤独は散歩する。
憂欝は中毒する[#「憂欝は中毒する」に傍点]。
□空は風ふく。
私は咳する。
[#ここで字下げ終わり]
二月八日[#「二月八日」に二重傍線] 晴。
風、風、風はほんたうにさみしい[#「風はほんたうにさみしい」に傍点]!
昨夜の余得として、酒がある、カマボコがある、バツトがある、――ありがたく頂戴して今日の憂欝[#「今日の憂欝」に傍点]を消散せしめる。――
あるだけ飲んで食べて、そして寝る、としよりの、独りぼつちの怠けものの気楽さだ。
終日、風を聴く。――
何でもない事、その事が身心にこびりついて離れない不快、風が屋根の藁を吹き散らして貧乏な私を悩ます。……
私はリヨウマチのおかげで、おとなしく閉ぢ籠つてゐます、――といふやうな消息の文句はあまりおもしろくない。
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