、ぬくいかな火燵。
今晩も鮒を料理して独酌。
近来めつきり老衰したことを感じる、みんな身から出た錆だ、詮方なし。
老衰しきつてしまへば、また、そこにはそこだけのものがあるだらう。
彼を思ふ、彼とは誰だ、彼女を思ふ、彼女とは誰だ、故郷を思ふ、故郷は何処だ!
老いて夢多し[#「老いて夢多し」に傍点]、老いて惑多し[#「老いて惑多し」に傍点]。
慾がなくなるほど濁が見える[#「慾がなくなるほど濁が見える」に傍点]、澄んでくる[#「澄んでくる」に傍点]。
澄んだり濁つたり、濁つたり澄んだり、そして。――

 十一月廿五日[#「十一月廿五日」に二重傍線] 好晴。

朝酒あります!
身辺整理、まづ書信をかたづける。
午後、街へ――ポストへ、風呂屋へ、それから学校へ、そこで偶然、豚を屠る光景を目撃して不快な気持になつたが、樹明君に逢つて与太をとばしてゐるうちにすつかり愉快になつた。
こらへる[#「こらへる」に傍点]――こらへろ[#「こらへろ」に傍点]――こらへた[#「こらへた」に傍点]!(何を――酒を!)
殆んど夜を徹して句作推敲、ねむれないからしようことなしの勉強だ、明け方ちかくとろ/\としたら、
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