こではSやKや彼や彼女が現はれて、私を泣かせたり笑はせたりした、過去と現在がこんがらがつて。……
午後Nさん来庵、いつしよに散歩かた/″\石油買ひに新町へ、そして途中別れた。
おかげで、今夜は燈明がある読物がある。
柿、柚子、橙、唐辛等をとりいれる、其中庵もまづく[#「づく」に「マヽ」の注記]してそしてゆたかだ。
風がなか/\強い、をり/\しぐれる、昼は秋ふかいものを感ずるが、夜は冬の来たことを感じる。
風の落ちた空に夕月が出てゐた、忘れがたい風景であつた。
ぢつとしてゐても、出かけても、何となく労れる、胸が痛い、これは感冒のひきこみがよくならないからだらうが)[#「)」に「マヽ」の注記]近頃めつきり老衰を覚える。……
おちついてしめやかな老境[#「おちついてしめやかな老境」に傍点]、それは私の切に望むところである。
なるやうになつてゆく[#「なるやうになつてゆく」に傍点]、――それが私の生き方でなければならない。
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最も古くして常に新らしいものは何か[#「最も古くして常に新らしいものは何か」に傍点]、それが芸術の、随つて人生の真実である。
軒端に蟷螂が産卵した産
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