かれ」に傍点]、前を観よ。
いや、観ようともするな。
見えるだけ見るがよい、聞えるだけ聞くがよい、触れるだけ触れるがよい。
自我放下[#「自我放下」に傍点]!
[#ここで字下げ終わり]

 十一月十八日[#「十一月十八日」に二重傍線] 曇、時雨。

雲のやうに、水のやうに、そして風のやうに。
久しぶりに落ちついて、御飯を炊きお汁をこしらへた。
いつでも死ねるやうに[#「いつでも死ねるやうに」に傍点]、いつ死んでもよいやうに[#「いつ死んでもよいやうに」に傍点]、身心を整理して置くべし[#「身心を整理して置くべし」に傍点]。
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   なかれ三章
一、くよくよするなかれ。
一、けちけちするなかれ。
一、がつがつするなかれ。
   べし三章
一、茫々たるべし。
一、悠々たるべし。
一、寂々たるべし。
[#ここで字下げ終わり]
勿論、物事にこだはつてはいけないが、こだはるまいとして、こだはることにこだはつてはならない。
執着のなくなるのは蛇が脱皮するやうでなければならない、蝉が殻を捨てるやうに、内に熟するもの[#「内に熟するもの」に傍点]があれば外はおのづから新らしくなる
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