何となく寝苦しかつた、Kを夢みた、彼が近々結婚するので、その式場の様子をまざ/\と夢に見たのである。
私には何も贐するものがない、ああ。

 八月十三日[#「八月十三日」に二重傍線] 雨、曇。

しづかなるかな。
降る、降る、降る、降る。
私には飛躍[#「飛躍」に傍点]はあつても漸進[#「漸進」に傍点]はありえない。
夜は樹明君が宿直といふ通知があつたので、のこ/\出かけて、とう/\酔うて、こそ/\泊つた。

 八月十四日[#「八月十四日」に二重傍線] 晴。

眼が覚めて見廻すと、学校の宿直室に寝てゐる、樹明君の側に寝てゐる、……朝酒二杯ひつかける、朝飯をよばれて戻る。
ほろよひ人生だ[#「ほろよひ人生だ」に傍点]、へべれけ人生[#「へべれけ人生」に傍点]では困る。
ロンドン日本大使館気付で、斎藤清衛さんへ、私としては長い手紙を書く、斎藤さんは歩く人[#「歩く人」に傍点]だ、ほんたうに歩く人だ、遙かに旅程の平安を祈る、それにしても私は私自身が省みられる、私は歩かなくなつた、遊びまはるやうになつた、私の現在の苦悩はそこから起る。
正午のサイレンを聞いてから、樹明君と約束した通り、釣竿かつ
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