Nさんが来られて、そつと帰られた(後から書置きを見て知つた)。

 十一月十五日[#「十一月十五日」に二重傍線] 曇。

附近で演習がある、それを観るべく出かけられたらしいKさんNさん来訪。
何もかもなくなつた、水まで涸れてしまつた!
悪夢がはてしもなくつゞく。

 十一月十六日[#「十一月十六日」に二重傍線] 曇。

澄太君には逢へなかつた、とても山口へは出かけられし[#「れし」に「マヽ」の注記]、返事も出せなかつたので留守だと思はれたのだらう、あゝすまないすまない、ほんたうにすまない。
夕ちかく俊和尚は知らせの通り来庵、数日寝たきりの私も誘はれて、駅前の宿まで出かけた、そこでいろ/\御馳走になつた。
秋ふかうして人のなさけのあたたかさ、友の温情が身心にしみこむ、何[#「何」に「マヽ」の注記]は幸福だ、幸福すぎる。
睡れない、睡れないのが本当だ。……
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――とにかく生きてゐたくなくなつた、といふよりも生きてはゐられなくなつた、とすれば、死ぬるより外ない、死んで、これ以上の恥と悩みとから免がれるより外ない。
酒、句、そして何がある、それ以外に。
酒は私を狂はしめ
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