暮れて樹明君来庵、ほろ酔機嫌でニコ/\してゐる、今日の私の行動をもうチヤンと知つてゐる、明後日の緑平老歓迎のことを話しあつて、めでたくさよなら。
Y夫人の急死を聞かされたとき、私の身心はドキンとした、手当は十分行き届いたのだらうけれど、何しろ尿毒症の激発ではどうにもならなかつたらしい、ああ、ああ、Y主人の悲嘆が思ひやられる、彼女は私の酔態をよく知つてくれてゐた、彼女の面影が眼前に彷彿して、無常観[#「無常観」に傍点]をそそつてたまらなくなる。……
アルコールのおかげで、ぐつすり寝た、飲みすぎ食べすぎで腹工合はよくないが。
事の多い、感慨の深い一日だつた。
十月十七日[#「十月十七日」に二重傍線] 晴。
神嘗祭、よい休日。
おちつけ、おちつけ、おちついて、おちついて。――
昨日の御飯に昨夜の沙魚、うまいうまい、Nさんありがたうありがたう。
ちよつとそこらを散歩しても、秋の楽園。
午後、ポストまで、大根一本三銭。
刈田の蓼紅葉のうつくしさ、草紅葉は好きだ。
シヨウガの風味、シソの実の風味、それも秋の風味[#「秋の風味」に傍点]。
歩くと暑い暑い、帰るとドテラを脱いで浴衣一枚、涼しい
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