きられるだけは生きよう」に傍点]。――
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火!
毎朝、起きるとすぐ竈の下を焚きつける、ちろちろと燃える、燃えあがる。
うつくしい、ありがたい。
火の尊厳美[#「火の尊厳美」に傍点]をたたふ。

天地悠久を感じる。
自然の恩寵を感じる。
万物の流転を感じる。

感じることは事実だ[#「感じることは事実だ」に傍点]。
見るよりも聞くよりもたしかな事実だ。
触れること[#「触れること」に傍点]がたしかな事実であるやうに。

今日の幸福[#「今日の幸福」に傍点]。
今日の感謝。
[#ここで字下げ終わり]

 十月十四日[#「十月十四日」に二重傍線] 快晴。

申分のない秋日和、松茸が食べたい。
私が昨年来特に動揺してゐたのは、老年期に入る動揺[#「老年期に入る動揺」に傍点]のためであつたと思ふ、不安、焦燥、無恥、自暴自棄、虚無、――すべてがその動揺から迸つたのだらう、そしてそれに酒が拍車をかけた、私の激しい性情が色彩を濃くした、……しかしそれも過ぎてしまつた、私は今、嵐の跡[#「嵐の跡」に傍点]に立つてゐる。
たより/\いろ/\、緑平老は十八日に来庵してくれるといふ、待つ
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