た、花火が見える、何となく人が恋しく過去がなつかしかつた。
八月四日[#「八月四日」に二重傍線] 曇、後晴。
今日は涼しい、涼しすぎる。
家の中へ紛れ込んでゐる蝉を空へ放つてやつたら、蜘蛛の囲にひつかゝつてあえない最後を遂げた(その蝉を助けないのは私の宿命観だ)。
街のレコードがさかんに唄ふ、私は蚊帳の中でそれを聴いてゐる。
たよりさま/″\で、どれもありがたい、すぐかへしを書いて駅のポストへ入れる。
やつと書信だけはかたづいた。
蚊帳のうちで月見、私らしい贅沢。
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好意を持たれることはうれしいが、持たれすぎることは恥づかしい。
買ひかぶられても見下げられても私は苦しい。
[#ここで字下げ終わり]
八月五日[#「八月五日」に二重傍線] 曇――晴。
五時起床。
桔梗が咲きつゞける、山桔梗なら一段とよからう。
蜘蛛の仕事を観る。
熊蝉が鳴きだした。
夕立を観る。
雨はしめやかでよろしいけれど、雨の漏る音はわびしいものである。
焼酎二合二十四銭、揚豆腐二枚三銭。
街で樹明君に邂逅、同伴して帰庵、飲むうちに、そして歩くうちにムチヤクチヤになつてしまつた。
身心
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