蝶がとぶ、とんぼがからむ、蜂がなく、虫がなく、木の葉がちる、小鳥がちらつく、――私の沈んだ情熱[#「私の沈んだ情熱」に傍点]がそこらいちめんにひろがつてゆく。――
雑魚のうまさ[#「雑魚のうまさ」に傍点]、雑草のうつくしいやうに。
よい酒よい飯をいたゞいた。
柿落葉の風情。
昨日も今日もたゞつつましく。
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(六日)
・おのれにこもる木の実うれてくる
・木の葉ひかる雲が秋になりきつた
・ゆふ闇はたへがたうして蕎麦の花
・明日のあてはない松虫鈴虫
・ゆふ焼のうつくしくおもふことなく
・秋の夜の鐘のいつまでも鳴る
・陽だまりを虫がころげる
・青空のした播いて芽生えた
・たゞに鳴きしきる虫の一ぴき
[#ここで字下げ終わり]
十月七日[#「十月七日」に二重傍線] 曇、――晴。
早起して身辺整理。
寒くなつた、冬物の用意をしなければならなくなつた。
ほうれん草を播く、大根がもう芽生えてゐる、生れるもの、伸びるもののすがたはうれしい。
午後、四日ぶりに街へ、石油買うて、一杯ひつかけて、雑魚をさげて戻る。
暮方近くNさん来庵、職を持たない人の不安と弛緩とがよく解る。
夜は婦
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