汝の性のつたなきを泣け」に傍点]」といふより外ないではないか。
灯取虫よ。
お前はお前の性に随順して亡んだ。
成仏うたがひなし、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。
[#ここで字下げ終わり]

 十月五日[#「十月五日」に二重傍線] 曇。

沈欝たへがたし、昨夜の今朝だからいたしかたなし。
その日のその日のその日[#「その日のその日のその日」に傍点]がやつてきた! やつてきた!
茫々漠々、空々寂々、死か狂か、死にそこないの、この心を誰が知る!
夕方、酒が持ち来された、ほどなく樹明君来訪、しんみり飲んで別れた、よかつたよかつた。
やすらかな眠をめぐまれた。
[#ここから2字下げ]
(五日)
・かさりこそりと虫だつたか
[#ここで字下げ終わり]

 十月六日[#「十月六日」に二重傍線] 晴――曇。

朝寝、沈静。
自己を清算せよ[#「自己を清算せよ」に傍点]、過去を放下せよ[#「過去を放下せよ」に傍点]、――それが[#「それが」に傍点]、それのみが私の生きて行く道である[#「それのみが私の生きて行く道である」に傍点]。
緑平老からの手紙はなつかしかつた、うれしかつた。
ぼんやり縁に坐つてゐる、――
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