ても
来てくれない曼珠沙華が赤い
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此二章を樹明君にあげる。
秋空一碧、一片の雲なし、私もあんなでありたい。
地虫しきりに鳴く、私もあんなにうたひたい。
自己を知れ[#「自己を知れ」に傍点]、此一句に私の一切は尽きる。
大毎記者Mさん来庵、ざつくばらんに話す、私のやうなものの言動が記事の一つとして役立てば、それもよからうではないか。
午後は散歩、ついでに入浴。
矢足は椿が多い、椿の里[#「椿の里」に傍点]といつてもよからう(柿の里[#「柿の里」に傍点]といつてもよいやうに)、今日もおばあさんとむすめさんとがその実をもいでゐる、絞つて油をとるために、――好ましい田園風景の一齣。
何よりも私は自制力[#「自制力」に傍点]が欲しい。
夜はやりきれなくて街へ出かけて飲んだ、泥酔した、あさましい事実だ!
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私に出来ることは二つ、たつた二つしかない――
 酒を飲むこと。
 句を作ること。
願はくは、
 わるくない酒[#「わるくない酒」に傍点]を飲むこと。
 よい句[#「よい句」に傍点]を作ること。
そしてその二つを育むものとして――
 歩くこと。
 読
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