魚とを買つて貰ふ、後から来るといふので、庵中独酌、待つてゐる。
酒はうまいな、飯はうまいな。
三十余時間ぶりに御飯がはいつたので胃がたまげて鳴つてゐる、どうだ、うまからう。
私が――歯のない私が鮹を食べる!
今夜は私も樹明君もおとなしかつた、飲んで食べて、さよなら、万歳!
熟睡だつた、豚のやうに。
一升ぺろり、よい、よい、よいとなあ!
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   彼に与へた言葉
私がわるくなれば君もわるくなる。
君がよくなれば私もよくなる。
お互によくならう。
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 九月十八日[#「九月十八日」に二重傍線] 晴、満洲事変記念日。

宵寝をしたのであまり早起だつた。
朝空の星のうつくしさ。
身心平静、秋気清澄。
百舌鳥が出て来た。
胃の工合がよろしくない、当然すぎる当然!
昼飯を食べてから、ふと思ひ立つて湯田へ行く、椹野川を土手づたひに溯る、葦の花、瀬の音、こほろぎのうた、お地蔵さま、秋草のいろ/\、……温泉で一浴して引き返す、徃復とも歩いたが(銭がないから)、近来のよい散歩だつた。
温泉はありがたし、酒と飯とがあればいよ/\ありがたし、銭があればます/\ありが
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