ある、湯田へまはつて一浴、バスで足元のあかるいうちにめでたく帰庵。
だいぶ日が短かくなつた、私にも夜も昼も長いのだが。
めつきり蚊が少くなつた、虫の声が鋭くなつた、秋らしい秋になつてくる。
不眠、読んだり考へたりしてゐるうちにたうとう夜が明けた、老境を感じた。
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△忘れた句[#「忘れた句」に傍点]は逃げた魚のやうに感じる、その実その句はくだらない句なのだ、その魚がつまらない魚であるやうに。
△憑かれたもの[#「憑かれたもの」に傍点]! 私もその一人らしい、酒に憑かれてゐる、句に憑かれてゐる。
△かういふ生活をしてゐて、さびしくないといふのはウソだ、ウソはいひたくない、いふものではない。
笑ふものは笑へ。
おかしければ笑へ。
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九月十日[#「九月十日」に二重傍線] 曇。
二百二十日、さすがに厄日らしく時々降つたり吹いたり、雷鳴があつたり、多少不穏な空気が動かないでもなかつたが、無事だつた。
番茶のうまさよ、酒もうまいが、茶にはまた茶独特のうまさがある。
茶の味は私にはまだほんたうに解らないけれど。
午後、街へ散歩
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