五年の悔だけが残つてゐる。
身のまはり家のまはり、きたない、きたない。
暑苦しい日々夜々。
午後、樹明君に招かれて宿直室へ出かける、久しぶりに、ほんたうに久しぶりだつたが、かなしいかな、彼は飲めない、衰弱した様子が気の毒とも何ともいへない、すまないけれど私だけ飲んだ、駅辨も御馳走だつた。
寝物語がいつまでも尽きなかつた。
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孤独は求むべきものではない、求めてはならない、太陽は孤独だといつて威張る人がある、負け惜しみは止したがよい、人間は星屑のやうに[#「星屑のやうに」に傍点]在るべきものである。
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 七月三十日[#「七月三十日」に二重傍線] 晴。

早朝帰庵。
今日も身辺整理。
歯痛、樹明君の盲腸と私の歯[#「樹明君の盲腸と私の歯」に傍点]とはおなじやうなものだ、共に役立たないもののために苦しみ悩まされる。
暑い/\。
久しぶりに落ちついて晩酌、しきりにKの事を考へた。
誰もみんな幸福であれ。
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邪気を吐きつくせば邪気なし、この意味で時々泥酔することは悪くない、それは大掃除みたいなものだ。
彼の一生は逃避行の連続では
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