つ、私は心で叫んだ、――蜆貝よ、私は今、鬼になつてゐるのだ!
いつ来たのか、鼠がさわぐ、鼠は家につきものだ、寝床はあげるが食物はあげられないぞ。

 八月二十一日[#「八月二十一日」に二重傍線] 半晴半曇。

今朝は早起だつた、御飯が[#「が」に「マヽ」の注記]食べてから六時のサイレンがきこえた。
街へ出かける、買物いろ/\、アメリカから句集代を送つて下さつた渓厳子に感謝する。
来信とり/″\すぐ返事を認めて、駅のポストへ。
雑草を眺めて、そのよろしさを味ふ。
午後また街へ、焼酎二合弐拾四銭、大根一本五銭、落ちついて晩酌、そして読書。
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   緑平老に
……出放題になりたいといふあなたが出放題になれないで、なりたくないと思ふ私がなる、とかく世の中はかうしたもので、さういふ人生もまたおもしろいではありませんか。……
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Kが結婚するさうな、いや、したさうな
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をべしをみなへしと咲きそろふべし
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この一句が私のせめてものハナムケに有之候、あはれといふもおろかなりけり。
[#ここで字下げ終わり]

 八月廿
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