・うたうとするその手へとまらうとする蝿で(雑)
[#ここで字下げ終わり]

 六月十一日[#「六月十一日」に二重傍線] 晴。

飲む酒はないが読む本はある、ぢつとしてゐられるだけの食べる物もある。……
梅雨入前らしく少し曇つて降つた。
在るものを味ふ[#「在るものを味ふ」に傍点]。

 六月十二日[#「六月十二日」に二重傍線] 晴、入梅。

よき食慾、よき睡眠(そしてよき性慾)、――これが人生の幸福を基礎づける。
とても好いお天気、すこし風はあるが、一天雲なしで、青空の澄んだ深い色は何ともいへないうつくしさである。
読書にも倦んでそこらを散歩、Iさんから在金全部十九銭借りる、さつそく酒一杯ひつかける、煙草を買うたことはいふまでもない。
いやな風がふく、風はほんたうにさびしいものである。
らしい生活[#「らしい生活」に傍点]、それは無論第二義的第三義的なものであるが、それを持続してゆくうちに第一義的に向上することが出来るのではあるまいか。
老人は老人らしく[#「老人は老人らしく」に傍点]、貧乏人は貧乏人らしくせよ、いひかへれば、気取らずに生活せよ、すなほに正直に振舞へ。
貧乏はよろしい、
前へ 次へ
全186ページ中82ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング