い
子をおもふ
・わかれて遠いおもかげが冴えかへる月あかり
・あの人も死んださうな、ふるさとの寒空
・あすは入営の挨拶してまはる椿が赤い
・おわかれの声張りあげてうたふ寒空
・ひつそり暮らせばみそさざい
・ぬけた歯を投げたところが冬草
[#ここで字下げ終わり]
一月十九日[#「一月十九日」に二重傍線] 雪へ雪ふる寒さ、「寒」も変態的から本格的となつた。
今日が一番冬らしい冷たさだつた、吹く風もまさに凩。
午後、急に思ひ立つて防府へ行く、運悪くも逢ひたい人に逢へず、果したい用事も果さなかつた、たゞ宮市――生れ故郷[#「生れ故郷」に傍点]の土を踏んでライスカレーを食べて帰つた。
非常に労れた、私はぢつとして余生[#「余生」に傍点]を終る私でしかないことが解つた。
ぐつすり寝た、熟睡のありがたさ[#「熟睡のありがたさ」に傍点]、それは近頃にないうれしいめぐみだつた。
一月二十日[#「一月二十日」に二重傍線] 晴、四五日来の暗雲[#「暗雲」に傍点]がすつかり消えた。
今日はDさんSさんKさんが来庵する日である、何はなくとも火をおこし、炬燵をぬくめておかう。
友あり……と庵主の
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