終日終夜、読書思索。
深夜の来庵者があつた、酔樹明君とI君、どこへいつても相手にされないのでやつてきたといふわけ、管を巻くことはやめにして寝てもらつた!

 一月十六日[#「一月十六日」に二重傍線] 曇、初雪。

早朝、樹明君がしほ/\としてかへつてゆく、酔つぱらつた人間もみじめだが、酔ひざめの人間はさらにみじめだ!
うれしいたより、井師から麻布の佃煮を頂戴した、さつそく昨夜の酒を燗して、雪見酒[#「雪見酒」に傍点]といふ贅沢さ、酒もうまかつたが、佃煮はとてもおいしかつた。
佃煮といふものは日本的情趣[#「日本的情趣」に傍点]がある。
近頃の私は飲むこと[#「飲むこと」に傍点]よりも食べること[#「食べること」に傍点]に傾いてゐる。
小米餅が見つかつたのでさつそく買つた、まづしい田園味[#「まづしい田園味」に傍点]だ。
久しぶりに入浴、しづかなるかな身も心も。
此頃は巻煙草よりも刻煙草が好きになつた、しかもなでしこ[#「なでしこ」に傍点]のどろくさいのが!
炬燵で読んだり考へたりしてゐるうちに、いつしか夜が明けてしまつた。……
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・芽麦あたゝかなここにも家が建つ

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