なかつた、……寝るより外なかつた。
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  白船君に
だまされてゆふべとなれば木魚をたたく
  改作追加一句
子がうたへば母もうたへばさくらちる
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 三月二十二日[#「三月二十二日」に二重傍線] 晴。

生死を生死せよ[#「生死を生死せよ」に傍点]。

 三月二十三日[#「三月二十三日」に二重傍線] 雪でもふりだしさうな曇りだつたが、午後はぬくい雨となつた。

たよりいろ/\、ありがたし、かたじけなし。
街へ出かけて、払ふべきものを払へるだけ払ふ、Tさんの如きは、払つて貰ふことは予期してゐなかつたといつて私よりも彼女が恐縮した!
雑魚で一杯、ほろ/\酔うて、ぶら/\歩きたい気分をおさへて寝た。……
雑木雑草[#「雑木雑草」に傍点]、その幸福にひたつた。
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・ふるさとはおもひではこぼれ菜の花も
 なんと長い汽車が麦田のなかを
・ぼけが咲いてふるさとのかたすみに
・けふはこれだけ拓いたといふ山肌のうるほひ
・水に雲が明けてくる鉄橋のかげ
   妹の家を訪ねて二句
・門をはいれば匂ふはその沈丁花
 しきりに尾をふる犬がゐてふ
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