九日」に二重傍線] 春寒。

身心平安。
山口の句会へ行く、椹野川づたひに歩いて行つた、春景色、そして私は沈欝であつた、いつ訪ねても周二居はしづかであたゝかである、湯田温泉も私のかたくなにむすぼれた身心をほぐしてくれた、おいしい夕飯をいたゞいて、若い人々と話して、終列車で戻つた、まことによい一日一夜であつた。

 三月十日[#「三月十日」に二重傍線] 日露戦役三十年記念日。

すつかり春、しゆう/\として風が吹く。
奴豆腐で一本、豆腐はうまい、いつたべてもうまい、酒は時としてにがいけれど。
蛙が鳴いた、初声である、蝶々も出てきてひら/\。
こころたのしい日である。
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日の丸が大きくゆれる春寒い風
  (試作)或る友に代りて
触れてつめたい手に手をかさね
[#ここで字下げ終わり]

 三月十一日[#「三月十一日」に二重傍線] 晴、雨、風、そしてまた晴。

初雷、春をうたふ空のしらべだ、春雷。
旅をおもふ、旅仕度して旅情を味ふ。
樹明来庵、とろ/\、それから、どろ/\!
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・ゆらげば枝もふくらんできたやうな
・春はいちはやく咲きだしてうすむらさき
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