君よ、幸福であれ。
前の菜畑のあるじから大根を貰ふ、切干にして置く、大根は日本的で大衆的な野菜の随一だ。
よい晩酌[#「よい晩酌」に傍点]、二合では足りないが三合では余ります。
うたゝね、宵月のうつくしさ。
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周二君を送る三句
落葉あたゝかう踏みならしつゝおわかれ
・おわかれの顔も山もカメラにおさめてしまつた
・おわかれの酒のんで枯草に寝ころんで
・甘いものも辛いものもあるだけたべてひとり
枯草を焼く音の晴れてくる空
・枯木に鴉が、お正月もすみました
送電塔が、枯れつくしたる草
私の懐疑がけふも枯草の上
時間、空間、この木ここに枯れた
[#ここで字下げ終わり]
一月十二日[#「一月十二日」に二重傍線]
いつもより早く、六時のサイレンで起きる。
物忘れ[#「物忘れ」に傍点]、それは老人の特権かも知れない、私も物忘れしてはひとりで微苦笑する。
餅と酒とを買ふ、餅もうまいし酒もうまい。
酔うた、酔うたよ、二合の酒に。……
夜はさびしい風が吹きだした、風がいかにさびしいものであるかは孤独生活者がよく知つてゐる。
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・雑草よこだは
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