分を省みて考へてゐると、過去がまるで遠い悪夢のやうである、明日の事は考へない、私は今日の私を生かしきれば[#「今日の私を生かしきれば」に傍点]よいのである。
本日の郵便物は――
[#ここから1字下げ]
黎々火君から、十返花君から。
病秋兎死君から最初の来信、それはうれしいかなしいさびしいものだつた。
雄郎和尚からヱハガキと詩歌[#「詩歌」に傍点]八月号。
清臨句集、黎明[#「黎明」に傍点]、これは亡児記念としての句集で、用紙は大版[#「版」に「マヽ」の注記]若狭紙、りつぱなものであるが、誤植が比較的に多いのは惜しかつた。
[#ここで字下げ終わり]
夕方、庵のまはりをぶら/\歩いてゐると、蜘蛛の囲に大きな黒い蝶々がひつかゝつて、ばた/\あえいでゐた、よく大人も小供もかういふものを見つけると、悪戯心や惻隠心から、その蝶々を逃がしてやるものである、蝶々は助かるが蜘蛛は失望する、私はかういふ場合には傍観的態度[#「傍観的態度」に傍点]をとる、さういふ闘争は自然[#「闘争は自然」に傍点]だからである、蝶の不運[#「蝶の不運」に傍点]、そして蜘蛛の好運[#「蜘蛛の好運」に傍点]、所詮免かれがたい万
前へ
次へ
全186ページ中141ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング