いへないものがある、さびしいとばかりはいひきれないものが。
午前は駅のポストへ、午後は街のポストへまで出かけた、そして歩々に肉体の秋[#「肉体の秋」に傍点]を痛感した、……人間は生活意力が盛んであれば十年に一歳しか年取らないが、生活意力が衰へると、一年に十歳ほど年取ることもある、……私は此一年間にたしかに十歳老いた!
△日本の秋[#「日本の秋」に傍点]はほんたうに美しいかな、今日途上で、水へめざましく紅葉してゐる山櫨を観賞した。
△句作は米の飯[#「句作は米の飯」に傍点]、いや麦飯だ[#「いや麦飯だ」に傍点]、私にありては。
△私にもし友達といふものがなかつたならば、私はかうした生活をつづけることが出来なかつたであらう、友情は人間愛情の最高なるものである、私はその友情にめぐまれすぎるほどめぐまれてゐる。
うどん玉三つ、此代金六銭也、これでやつと今日の食慾をそゝることができた、貨幣の六銭はともかくとして、三つのうどん玉はまことにありがたいものであつた。
食慾不振[#「食慾不振」に傍点]と睡眠不能[#「睡眠不能」に傍点]とは人間生活の最大不幸である、私は今、その二つの不幸に襲はれてゐる、す
前へ 次へ
全114ページ中61ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング