風雨がおさまつて晴れてきた。
菜園手入、ホウレン草と新菊とを播きつけた、これで播きたいものだけは播いた、大根、蕪、菜はもう芽生えてゐる、風で倒された蕃椒や茄子をおこしてやる。
嵐の跡、野分の名残も寂しいものである。
街のポストへ、酒屋で一杯ひつかけて、新聞を読んでゐる間に、ついてきたSが見えなくなつた、生き物は厄介だな、探しても見当らないから戻る、Sよ、早く戻つてこい。
大根一本四銭は高いな、田舎味噌百匁八銭。
あれこれ、そそくさして夜が明け日が暮れる。――
昨日もさうだつた、今日もさうだ、明日もさうだらう。……
背広をきて、ステツキをついて、犬をつれて、山頭火も歩いたらどうです!
庵の周囲は曼珠沙華の花ざかり、毒々しい花だけれど、捨てがたい野性味がある、人がかへりみないだけ私は心をひかれる。
うすら寒い、ソデナシをきて頭巾をかぶつて、さて――
だいぶおそくなつてSが戻つてきた、何だかすまなさうにしよんぼりしてゐる、飯を与へると、いそいで食べて、ぐつたりと寝てしまつた、やれ/\これで私は安心。
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・けさの水音の、ゆふべがおもひだされる雨
・サイレン鳴れば犬がほえる
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