つて十一時四十分東上急行車の発着までゐればよかつたのだ(砂君は多分自動車でやつて来て、その列車に乗り込んだのである)、人生の事おほむね斯くの如し、ほんの五分か十分の現在が当来の十年二十年となるのである。
何ぞ塩の安きや[#「何ぞ塩の安きや」に傍点]、私は一ヶ年間に五銭づゝ三度しか塩を買はない、それで十分なのである、一年十五銭の塩代だ。
宮市はふるさとのふるさと[#「ふるさとのふるさと」に傍点]、一石一木も追懐をそゝらないものはない、そして微苦笑に値しないものはない。
天神様へ参詣した、通夜堂から見遙かす防府はだいぶ都会らしくなつてゐる、市となるのも時の問題だらう。
町役場で戸籍謄本を受ける、世間的に処理しなければならないことが私にもある!
駅前の菖蒲園を見た、日本的なのがうれしかつた。
十一時の汽車で帰庵、うちがいちばんよい(といふことは防府が私をひきとめるだけのものを持つてゐないといふことだ)。
△……足らで事足る生活[#「足らで事足る生活」に傍点]……それが私の現在の、そして将来の生活でなければならない。
日が傾いてくると、きゆつと一杯ひつかけたくなつて、もうたまらないので、わざ
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