も少し歩いて来なければなりません。……
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駅のポストへ行つて戻つたところへ、ひよこりと澄太君があらはれた、さつそく一杯やる、胡瓜がうまかつた、酒のうまさはいふまでもない、何もかも愉快々々。
六時の汽車で帰りたいといふので駅まで見送る、待つてゐる人のところへかへるとは、ちと癪にさわりますね。
月がよかつた、陰暦の五月十五夜だつた、一人で観るには惜しい景色であつた。
△月がこぼれる、月かげを拾ふ、といふやうな文句が思ひ浮べられた。
澄太君の友情はありがたい、水を汲んでくれ、そしてまた小遣までもおいてくれて、――私はこんなにして貰つてもよいだらうか!
螢がとぶ、すこしさびしい。
のう/\と蚊帳の中に横は[#「横は」に「マヽ」の注記]つてもなか/\に睡れなかつた、何だか少し興奮して。
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・山はひそかな朝の雨ふるくちなしの花
・子供が駈けてきて筍《カツポウ》によきりと抜いたぞ
 赤い花や白い花や梅雨あがり
 降つて降つていつせいに田植はじまつた
・花さげてくる蝶々ついてくる
   石鴨荘即事
 草山のしたしさは鶯のなくしきり(改作再録)
・酔へばはだ
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