の声は切ない、しかし情愛の籠つた声だ。
△一元的[#「一元的」に傍点]になりきりえない自分をあはれむ。
夜、時の記念として、――この句を喜代志さんにあげませう。
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サイレンが鐘が正しく私の時計も九時
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雨、夜の雨の音はよろしい。
未明近くT子さん来庵、たづねてきたのは私をぢやない、樹明をである、庵にはふさはしくない――困つたことである。
四時半には起きた、めづらしく裏山で狐が鳴いた。
(変電所の構成)
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・草からてふてふがまた草へ
大地にごろ/\かさなつて豚の仔が暑い
ゆふべ時計がとまつてゐる午後三時
ゆふべの窓に影あるは竹の二三本
・ひろがつて、こぼるゝ花をうけてゐる葉の(南天と蕗)
・ゆふ空ゆうぜんとして蜘蛛の生活
・蜘蛛は網張る、私は私を肯定する
・枯木へ糸瓜の蔓をみちびく
・萱もみな穂に出て何か待つてゐるようなゆふ風
・かういふ世の中の広告気球を見あげては通る
・実つて垂れて枯れてくる
・いちめんの夏草をふむその点景の私として
・待つでもなく待たぬでもなく青葉照つたり曇つたり
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